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*...and they all lived happily ever after Part 1-4*

 

 

3時からが菊との面会時間。

 

最近は王に一言告げて、 学校を早退して菊のところにいくことが多い。

それでも時間までは少しあるから、それまでは院内図書館で時間をつぶす。

それから王が来ると2人で(というか俺が)何も無かったような顔をして菊のところに向かうのだ。

 

ちなみに、今は2時55分。

そろそろ菊のところに行く時間だ。

ちなみに今日は王が用事で来れないらしいから俺だけ菊のところにいく。

 

……のはいいのだが、昨日王に言われた事がひっかかったままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

軽くノックをしていつものように病室に入る。

 

この時間は菊も起きているから顔を見せれば、「アーサーさん」なんて小さく呼んでくれる。

だが今日は声がしない。

 

そっとベットに行くと静かに寝息を立てて眠っている。

起こさないようにそっとベット横のいすに腰掛けた。

 

「きーく」

 

小さく小さく名を呼ぶ。

病室は個室だから軋むいすの音以外は無音だ。

 

菊の顔を見てみると、一時期よりも頬がふっくらしたと思う。

ちゃんと食事は出来ているようでホッとした。

 

でも、それもつかの間で菊の頬には涙のあとが残っている事に気が付いた。

菊を起こさないように持ち合わせていたハンカチで撫でるように拭いてやる。

くすぐったいのか少し身じろぎをして口の中で何か言うと、またすぐに眠りに落ちてしまった。

 

心地よさそうに眠る菊に一度だけ歌ってやった子守唄。

布団に顔をうずめて口ずさむ。

 

何であの時歌っていたんだろうな。

 

そんな事を考えていたらいつの間にか意識が遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

「意外だな、菊って恐いもの平気だと思ってたのに」

 

俺が話した恐い話を聞くと、菊はすごく恐がってベットに潜り込んでいる。

確か付き合い始めたばかりで、寮で夜話すことが日課になり始めていたころだった気がする。

 

「私だって、苦手なものはありますよっ…」

 

ほんの少し怒ったようにそういった菊の声を聞いて、俺は少しだけ笑った。

 

「じゃあ、子守唄歌ってやるよ」

 

俺は菊の横にねっころがって、未だに布団から出てこようとしない菊を抱きしめる。

腕の中の身体は俺よりもずっと華奢だ。

強く抱きしめたらおれてしまうんじゃないかと思うほど。

 

「子守唄、ですか?」

「あぁ、俺のところにずっと昔から歌われてる唄」

 

そういうと、やっと顔を布団から出してくれて菊の表情を確認できる。

ずっと布団に潜っていたせいか、いつも色白い肌はほんのりと桃色に染まっている。

 

「歌って、ください」

 

小さな声でそういうと、瞼を閉じた。

その顔はとても綺麗で、可愛いというよりは美しい、と言った方が似合うと思う。

 

「もちろん」

 

俺はそういって、菊に子守唄を歌った。

背をとんとんと軽く叩いて、歌っていると微かな寝息が菊の唇からこぼれる。

 

「あんなに寝れないって言ってたのに、すぐ寝れてんじゃねーか…」

 

くすりと笑って、菊の額に小さなキスを落とした。

 

 

「おやすみ、菊」

 

 

 

 

あの事なんてつい最近の事だったのに、些細な事でさえずいぶん前のことに感じるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

愛しい人の歌う懐かしい歌が聞こえる。

 

それが夢なのか現実なのか私には分からなくて、とりあえず耳を澄ます。

 

私が一番好きなのは最後の部分。

でも、それを聞けないまま現実に引き戻された。

 

ゆっくりと目を開くと真っ白な天井が目に入る。

身体を起こすと、眠っている彼が目に入った。

布団に顔をうずめて気持ちよさそうに寝ているものだから起こす気にはなれない。

 

時計を見ると、3時半。

 

また学校を早退したのだろう。

そうでなければ、こんなに早くここには来れないはずだ。

 

 

本当は彼に会いたくなかった。

 

 

副作用があらわになり始めて、塞いだ気持ちでいることが殆どなのにこんな時に彼に会ったら泣いてしまう。

彼にはすでに迷惑や負担をかけているのに、私の不安を聞いてもらうことなんて出来ないから。

 

彼が私の居ない所でひっそり泣いているのは知っているのだ。

 

今日も彼の目元を見れば少し赤く腫れている。

 

「…また…泣いてたんですか」

 

彼が泣いているのは私のせい。

 

ここまで無理させておいて「大丈夫」なんて笑われると余計に苦しくなる。

せっかく綺麗な顔なのによく見れば目の下にうっすらクマまである。

指先で彼の目元に触れる。

少し腫れてるところが熱を持って暖かい。

 

私の前で決して泣かないその理由は、私を不安にさせないため。

 

私も彼の前では泣きたくない。

これ以上彼に負担をかけたくないから。

 

私はそんな彼が愛しくて仕方ない。

 

「アーサーさん…」

 

彼の名を呼ぶと金色の長いまつげが揺れる。

どうやら起こしてしまったらしい。

 

「ん……菊?」

 

かすれたような、甘いような彼の声が耳に届く。

 

前はあんなに好きだったこの声が、今では苦しくなる原因でしかならないのが悔しくて仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

「アーサーさん…すみません、起こしてしまいました」

「いや、別に大丈夫だ」

 

菊は、微笑をもらすと真顔に戻って下を見ていた。

その指はとても細くて俺は何故か不安になって、菊の指を握った。

 

お互い何も言わずに触れ合う肌のぬくもりを感じていた。

 

「アーサーさん」

 

不意に菊に呼ばれる。

 

「ん?」

「私は…貴方の負担になっていませんか?」

 

王の言っていた通りだ。

たぶんこのことが原因で菊は泣いていたのだろう。

 

「なってないよ。俺が好きでやってるんだし」

「…でも!私フランシスさんから聞いているんです…」

「…」

 

いったい菊はあいつから何を聞いているんだろう。

 

「学校を早退してまで私のところに来ていることも、夜も全然寝ていないせいで学校で寝ている事も…!それも、夜は私の病気について調べてくれているんでしょう?私のためにそこまでしなくてもいいですから…!」

 

「…きく!」

 

「さっきだって眠っていたし、全部…知っているんですよ!?」

 

俺は菊がこんなに声を荒げたとこを見たことがなくて正直驚いた。

それと同時に笑わなくなってしまった菊が悲しくて仕方ない。

 

「…菊…」

 

そっと菊を抱きしめた。

こんな時どうすればいいかなんて俺には分からないから。

 

「なぁ、菊…」

「…」

「俺はさ、菊のためだからこれだけ頑張れるんだよ?」

「嘘…」

 

小さく菊が言う。

 

確かに学校で眠ってしまう事も多いし、疲れてないって言ったらそれは嘘になる。

でも、菊がつらい時に俺だけ普通の生活をしている方がよっぽど俺にとっては負担になる。

 

「嘘じゃないよ。俺は菊が大変なときに一人で普通の生活してるほうが嫌だ」

 

何も言わずに菊は唇を噛んだ。

 

「菊、俺は菊にはなれないけど、菊の不安を聞くくらいなら出来るから」

俺がそういうと菊は泣きそうな目でじっと俺の目を見ていた。

 

「それで菊がまた笑えるならそれでいいから…」

 

菊がいきなり顔を伏せて服のすそを、ぎゅっと握りしめた。

 

それからすぐにやせた背が震えだす。

声を殺して泣くから、菊の口からは小さく嗚咽が漏れるだけだった。

 

「アーサーさん…、私すごく恐い……」

 

菊の初めて言った弱音は、小さくてほとんど嗚咽に隠れてしまっていた。

 

 

でも俺は菊にはなれないから、菊の苦しみを受ける事は出来ないからせめて小さくても力になってやりたい。

 

それも、きっと恋人を支えるために必要な事だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

冬空の下をゆっくりと歩く。

 

あれから面会時間が終わるまで俺は菊をああしていた。

菊はやっぱり不安で恐くて王にもあまり言えていなかったらしい。

 

だから俺は2人で約束をしてきた。

それは、『頑張り過ぎない事』。

頑張る、というのは少し無理をすること。

という事は、頑張りすぎるのは無理しすぎるのと同じなのだ。

 

俺も菊にはがんばれと言った事がない。

菊は十分がんばっているのに俺がそこに重ねてなんて気が引ける。

 

もうひとつ約束した事があって、『いつでも良いからつらくなったら俺を呼ぶこと』。

俺が何が菊に出来るわけではなく、力になんてなれるか分からない。

菊の力になる事が出来ればそれに越した事はない。

それでも、菊の力になりたくていくらこっちが気を向けていても本人が気持ちを隠してしまえば俺にも、王にも、誰にも分からないから。

 

菊には本当の笑顔でいて欲しい。

 

それが出来るなら何度泣いても良いと思いながら空を見上げた。

 

「…きく…、もう一人じゃないから…」

 

手を伸ばせば届きそうな程の星空に手を伸ばしてみる。

そんなことをしても星に手が届くわけでもないのは知っているけど、どんなに小さくても道しるべとなって俺たちを照らしてくれる光になってくれるから。

 

俺はきっと、菊が居てくれる限りどんなにツラくても乗り越えていけるだろう。

 

俺にとって菊は、もうひとつの道しるべであり星なんかよりもずっと正確な失うことのない光になっているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

空を見てみる。

 

窓越しでも少しだけ開いたカーテンの隙間から星空が見える。

ずっと抱きしめられていたから自分の身体から微かに彼の紅茶やバラの優しいにおいが染み付いていた。

 

彼は私を見抜いてくれていた。

隠したはずの涙も、弱さも全部、全部。

 

そんな中2人で約束した事が二つある。

どちらも彼が私も想ってくれていることがよく分かって余計に涙がこぼれたのも記憶に新しい。

私にとって、最後に言われた”いつでもいいから辛くなったら俺を呼んで”この言葉に助けられた。

もちろんもうひとつの言葉にもすごく、助けられたのだけど。

 

「……」

 

手のひらに握っていたケータイを開く。

待ち受けは彼の笑った顔。

周りから見たら、男同士だしおかしいんだろう。

 

だけど、私は彼が居るのならば頑張れるのだと思う。

 

「…アーサーさん…」

 

彼は私にとって決して失う事の無い光なのだ。

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